2013年1月 AMDA代表 菅波 茂さん
「救える命があればどこへでも」と、世界中の被災地へ医師団を派遣しているAMDA(アムダ)の創設者で医師の菅波さん。その活動は医療分野に留まらず、教育、平和、農業…と多岐にわたっています。「食べていない人には医療も効かない」と、海外での農業連携プログラムも発案中。アイデアと笑顔がいっぱいの対談になりました。
アムダとのパートナーシップ
高木 こんにちは。前回の対談が2008年7月になります。出会いは10年前ですから、お互い若かったですねぇ。
菅波 10年にもなりますか。確か、イラクで大地震が起きた翌日、ジョイント講演をしましたね。
高木 そうそう。「イラクに向かうアムダを応援しよう!」ということになって、その場で募金箱を回して、そこからアムダと『地球村』とのパートナーシップが始まりました。以降良い関係が続いていますね。
菅波 私が一番強烈に覚えているのは、2010年3月、ハイチで地震が起きたときです。ハイチは遠いし、現地の様子がよくわからないし、被害は大きそうだし、どうしようかなと迷っていたら、高木さんから電話が来ました。「どうしますか。行かれるんだったら支援しますよ」と。これは天の声だと思って、それから動いたんですよ。
高木 そうでしたね。「行けー!」と言わせてもらいました。アムダの活動には信頼をおいていますから、支援がしたいんですよ。東日本大震災の時も真っ先に動いたでしょう。
菅波 3月11日にチームが出発して、12日には仙台に到着していました。私はインドにいたのですが、すぐに帰国して合流しました。その後、原発が爆発したので若い医師たちは帰しましたが、残った我々で避難所を回りました。今も、医師を送ったり、被災地間交流を進めたり、ということを行っています。
相互扶助で平和のメッセージ
高木 東日本以外ではどんな活動を。
菅波 スリランカやアフガニスタンでは、医療和平という考え方を進めています。例えば1998年に、タリバンと北部同盟に岡山まで来てもらい、「アフガニスタンの全ての子どもたちにワクチン接種が終わるまで、戦闘行為をやめませんか」という提案をしました。対立しているグループに対して、医療というどちらの側も必要としているものを通じて和平を訴えたのです。双方が「自分たちが正義だ」と思っているときは手を結べないけれど、医療という相互扶助ならできるのではないかという提案なんです。
高木 それはすごい。医療機関の域を超えて、国の抱える問題までも解決しようとしているんですね。
菅波 アムダの基本は、考え方の違う人同士が共存共栄できる社会、相互扶助なんです。
高木 現在、世界各地にいくつ支部がありますか。
菅波 29ヵ国です。今度、グアテマラに30番目の支部ができる予定です。
高木 支部は申請があれば作れるのですか。
菅波 支部長になるには3つの条件があります。1.自分で食べていける人。2.よその国に何かあったとき、チームを出せと、チーム編成ができる能力があること。3.その国の政府に対して発言力があること。この条件が揃えば、支部長として認めます。
高木 支部には、本部から経済的なサポートをしているのですか。
菅波 それはありません。それぞれの支部で、独立採算でやってもらっています。純粋に志の繋がりだけで、あとは任せるんですよ。
高木 『地球村』と同じですね。うちも地域に『地球村』がありますが、本部・支部という関係ではなく同志としての繋がりです。
海外で相互扶助の農業を
高木 来年はどんな年になるでしょうね。
菅波 金融資本主義が、音を立てて崩れ始めると思います。今まで、いかにお金を儲けるかに血道をあげてきた人たちが戦犯になるでしょう。戦争を推し進めてきた人たちが1946年に戦犯になったように。そして、人間とは何か、どう生きるべきかが問われてくる。そういう意味で、高木さんと『地球村』は残りますよ。そういう時代が来ます。
高木 お互いに残りましょう。経済も医療も、今のままの仕組みではもう成り立たないし、大きく転換する時期に来ています。例えばキューバの医療を知っていますか。
菅波 確か、プライマリヘルスケアを大切にして、予防医療に務めているのでしたね。
高木 そうです。予防医療に力を入れるなら、100分の1のお金で、質の高い医療が可能なんです。日本のように最悪の結果が出てから治療するより、よほど効率的です。だからキューバでは、物価も100分の1で、貧富の差がない。医療も教育も老後も心配がないから、お金を貯める必要もない。農産物は自給自足。農薬を使うのも禁止で、使った農園は35年間使用禁止なんですよ。
菅波 そりゃいい! いかに病人を作らないかですね。
高木 そうなんです。病人を作らない予防医療、健康に暮らせる有機農業。感動しました。
菅波 もしTPPに参加したら、日本はいかにして国内農業を守ったらいいかというと、農薬を使わないことじゃないかと思います。実は、岡山県新庄村に水田10反を買って、スタッフ2名を送りこんでアヒル農法で作っています。農協もないし、用水路もないので、自由に有機農法が試せるんです。新庄村は標高600メートルで、アジアの山岳民族がいるところと同じ標高。アジアから農家さんを招いて研修基地にしようと考えています。ザンビアでも100ヘクタールの農地が2000万円で買えるので、買おうかと思っている。『地球村』もどうですか? モデル農園を海外に持ちませんか。例えばそこで、被災した福島の農家さんが自分たちの能力を活かすこともできる。日本の高い技術を伝えたら喜ばれますよ。福島のみなさんが農業技術を伝え、アムダは医療と教育を持ちこみます。人口が100億人になったときの食糧生産体制をひきましょう。世界に貢献できる時間と能力が、今、福島の人にあるのだと思いますよ。
高木 すばらしい。将来性、コンセプト、日本の現状など、3拍子揃ったプログラムで心が動きます。
菅波 『地球村』には高木さんの生き方に賛同されるネットワークがありますから、その方たちと一緒にやりましょう。
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