スペシャル対談

2013年2月 ㈱マイチケット会長 山田和生さん

『地球村』ツアーを手配し、昨年末はキューバへも同行した旅行社マイチケットの山田さん。

マイチケットのツアー参加者には、戦争放棄を謳った憲法9条(英語/韓国語/中国語訳)をプリントしたオリジナルパスポートカバーがついてきます。平和にも環境にも何やら信念がありそうな山田さんの原点とは…。仰天の対談になりました。

 

オルタナティブツアーの提案。

 

高木 こんにちは。『地球村』ツアー(2011年ブータン、2012年キューバ)では大変お世話になりました。

山田 こちらこそありがとうございました。ツアーは、参加者のつながりを作るところから始めなくてはならないのですが、『地球村』のツアーでは、最初から参加者間につながりがあるので、安心していられます。ブータンツアーはこれまで何度も企画していますが、キューバは初めてで勝手がわかりませんでしたので、同行させてもらうことにしました。

高木 キューバは全く初めて?

山田 キューバの近くのコスタリカツアーは結構行っています。その時にコーディネータの日本人スタッフに、キューバに下見に行ってもらいました。

高木 『地球村』としても、もう一度行きたいくらいキューバはよかったよ。いい刺激を受けました。
ところで、旅行社マイチケットの特徴を説明いただけますか。

山田 「ちょっと変わった旅行会社」ということで、「オルタナティブツアー」をメインに行っています。オルタナティブとは「もう一つ別な」という意味で、「マス(大衆)ツーリズム」の対極にあるものです。
ジャンボ機で動いて、グルメ、リゾート、ショッピングを大量に行うマスツーリズムは、それに伴う弊害もあります。
対して、民家に泊まる、文化に触れる、暮らしに触れる、市場や屋台で買い物をする、そのことによって地元の人たちと温かい出会いと交流が生まれる旅、それをオルタナティブツアーと呼んでいます。

高木 なるほど。どのような国々に行っているのですか。

山田 この春は18のツアーを企画しています。ブータン、カンボジア、バングラデシュ、タンザニア、タイ、ボルネオ…。
他に一般募集をしていない、大学や団体のスタディツアーも扱っています。
中でも一番つながりが深いのがタンザニアで、タンザニアツアーでいえば、うちがトップエージェントなんです。

 

国際連帯の拠点を作ろう!

 

高木 一般的な観光地ではなく、おもしろい行き先が多いですね。当初からオルタナティブツアーを企画する旅行社だったのですか。

山田 この話はあまりしたことがないので、少し長くなりますが・・・
78年に学校を出て、南大阪で診療所の職員として働き始めました。
1年後の79年3月、初めての海外旅行でベイルートに行きました。
行きはカイロ経由でしたが、ベイルートに行っている間にアラブの情勢が変わり、帰るときにはエジプトは敵になっていて入国できなくなりました。
私たちはベイルートに送り返されて、ビザが切れて、空港から出られない、お金もない、日本にも帰れない、「京都大学名誉教授の井上清先生以下12名、パレスチナ交流団行方不明」というニュースが日本でも流れる、という事態になりました。
ベイルートの空港のトランジットのエリアまで突入してきたPLOの部隊に助け出されて、PLO解放区のホテルには行けたのですが、やはりお金はない、チケットはない状態…。

そんな時、アラファトが「気の毒に」とお金を貸してくれたんです。
ようやく帰国した成田空港でたくさんマスコミのフラッシュを浴びながら、「アラファトにお金を返さなくちゃ」と考えていました。
ツアーを何度もやりましたが、ここまでのトラブルはまだありませんね(笑)。

その後、頭の中がパレスチナになった25歳の青年は、もう診療所では働けません。
81年、26歳で「パレスチナの連帯の拠点を作るんや!」と旅行社を始めました。

そもそも旅行社が作りたいわけじゃなく、情報や国際連帯の拠点を作りたいわけだから、行き先も偏っていきました。
パレスチナ問題、中東に始まって、「次は食糧問題と環境だ。となるとラテンアメリカだ」というわけで、内戦下のニカラグアツアーを十数回やって、いつしかニカラグラ国営旅行社の日本代理店になってしまって、NHKなどマスコミのコーディネートも手掛けるようになりました。

そんな時、アフリカ専門の旅行社がつぶれて、その旅行社をそのまま引き継いだのでアフリカも企画するようになって、ますます「ちょっと変わった旅行会社」になっていきました。

 

変化のきっかけとなる旅を!

 

高木 それはまた、波乱万丈の人生だね! 旅行社を始められた1981年といえば、『地球村』誕生のきっかけとなった私の交通事故の年だから、同じ誕生年かも。
ところで、私の講演を聞かれたことはありますか。

山田 25年くらい前にYMCAで聞いたことがあります。
内容もよく覚えています。南極の氷が崩落したときの津波の話、そういう危機的リスクに直面しているという話。
その時は、パナソニックに在籍している人の話として聞いたので、少し違和感がありましたが、久しぶりにお会いして、パナソニックも辞められてネットワークを立ち上げて、やり続けてこられたんだなあと感動しました。

高木 なるほど、最初は25年前でしたか。それでは最後に、これからの展望についてどうぞ。

山田 旅に出て、100分の1、10分の1の給与の人と出会う。これは正義じゃなく、僕らは暴力だと思うんです。
マイチケットは、暴力ではなく、ちゃんと出会いたいということからスタートしたのに、状況を変える力にはなっていない。
それでも僕らはきっかけを作り、次の世代が生かしてくれればと思います。

高木 同感。自然の中で暮らしている人々が文明と触れることは、彼らの社会の崩壊につながるので、触れないのがベスト。
運悪く発見されたなら、文明側が方向転換するモデル(お手本)として紹介したい。

山田 間に合うんでしょうか。

高木 残念ながら間に合わないだろうね。そもそも、過去の文明はどうなりましたっけ。

山田 すべて崩壊し、僕らは最後の文明に生きている。

高木 そうだね。現状の社会は方向を変えない限り滅亡は避けられない。
単なる延命治療はしたくないし、諦めるわけにいかない。
だから私は、文明の方向を変えるために、これをやり続けているのです。

山田 僕もこのままの世の中では孫に会わせる顔がないから、彼の将来のために無責任にはなれません。

高木 わが子、わが孫だけの未来もないし、人類だけの未来もありません。
すべての未来のためにがんばりましょう。今年もよろしくお願いします。

㈱マイチケット
今年も『地球村』ツアーを実施します。