【巻頭言】エゾシカは悲しからずや
今回はエゾシカについて調べてみた。エゾシカを通して生き方を学ぼう。
★歴史
エゾシカは北海道に生息する日本最大のシカで、以前は数百万頭いた。
北海道に昔から住んでいた人々は自然と調和して生きていく知恵があったが、近代国家になってから北海道に移住した人たちは、乱獲と森林破壊を始めた。森林破壊は生息地の破壊だから、野生生物は食物を求めて人里に出没するようになる。そうなると害獣として射殺されるから、人間は最悪の天敵なのだ。
1900年頃には絶滅の危機に陥ったが、その後保護活動が始まり、天敵のオオカミの絶滅などで現在は65万頭まで回復した。
しかし生息地である森林が減り続けているため、農作物を荒らしたり、樹皮を食べることで樹木の立ち枯れなどの被害が出たり、自動車と衝突などの問題がある。
★ツノ
若いオスは縄張りをもたないが、成長した強いオスは縄張りを持ち、縄張りの中に数十頭のメスを囲っている。縄張りを維持するために、隣接する縄張りのオスと戦い、縄張りをもたない若いオスと戦い、天敵のヒグマから群れを守るなど、常に戦わなければならない。
エゾシカの武器はツノだが、不思議なことにツノは毎年、春には抜け落ちる。
ツノは抜け落ちた瞬間、ゼロから成長が始まる。
成長中のツノは血が通い、成長中のツノは柔らかく神経も通っているために、武器にならないし戦えない。オスはこの時期、たくさん栄養をとり、身体を大きくし、ツノを大きくしなければならない。ツノの成長は秋に終わる。
成長が終わったツノは、血や神経が通わなくなり乾燥し、固くなる。
オスはツノを土や木で磨き、先をとがらせて武器として完成させる。
武器の目的は、年に1回の交尾を勝ち取るためなのだ。
強いオスは戦いに勝ち、多くのメスと交尾する。弱いオスは来年のチャンスに賭けるしかない。しかし、オスには大きな試練が待っている。
★オスの試練
オスはメスより身体が大きいからエサ(草、木の葉)もたくさん必要だが、エゾシカは冬眠しないから、雪で大地が覆われる冬が最も厳しい。
メスは春の出産に備えてエサを食べなければいけないのに対して、オスはある意味、役割を終えているから、冬はわずかなエサをメスに譲り、オスはツノで樹皮を削り、樹皮を食べて飢えをしのぐ。交尾で役割を終えて不要のはずのツノが春まで残っているのは、そのためかもしれない。
メスは春を迎えるが、オスは餓死したり、体力が衰えてヒグマに襲われたりして命を落とすものも少なくない。
★いのちのバトンタッチ
メスは6月に出産する。小鹿(バンビ)は1時間で立ち上がり歩き始める。母シカは母乳で育てるためにエサをたくさん摂らなければならない。
生き延びたオスは、メスとバンビのために縄張りを守る。
エゾシカの平均寿命は4年。しかも強いものしか生き延びられないし、強いものしか子孫を残せない。オスは戦い続けるが、それは生きるためと、子孫を残すため。それ以上の戦いはしない。
エゾシカは百万年も一千万年も同じ、この営みを続けてきたのだ。その生きる姿は厳しく美しい。
★しかし、人は・・・
人間も昔から侵略、領土争い、戦争など個人の競争、企業の競争、国家間の競争と、一見、野生生物と同じような競争や戦いを続けているが、野生生物の競争や戦いは常に「生きるため」と「子孫を残すため」だけであって、それ以上ではないことが大きく違う。
人間は、自分の欲、自分の便利快適のために膨大な消費をし、膨大な富を蓄え、自然環境を破壊している。その結果、自然が破壊され、資源が失われ、環境が汚染され、子孫の未来までも破壊している。
教育を受ければ受けるほど、国家が大きくなれば大きくなるほど、人は愚かになる。