スペシャル対談

2014年10月 音楽評論家・作詞家 湯川れい子さん

洋楽の評論家、作詞家、翻訳家、DJとして、国内外の音楽シーンをけん引してきた湯川さん。平和、環境、音楽療法、動物愛護の世界でも活躍され、特に3.11以降は、脱原発のイベント等で力強いメッセージを発信されています。日本の現状を憂いながらも、絶対に諦めないと語ってくださいました。

 

自分の感性で行動しましょう

高木 たいへんご無沙汰致しました。調べてみたところ、お目にかかるのは19年ぶりになります。

湯川 まあ、そうなりますか。お久しぶりです。

高木 湯川さんの活動はいろいろ多岐にわたるのでしょうが、一番力を入れているのは何になりますか。

湯川 「これがメインの活動です」と言えないくらい様々な活動をしていますが、やはりメインは音楽です。そして時にはデモに参加したり、スピーチをしたりします。どれも分けられなくて、すべてがオーバーラップしています。

高木 なるほど。よくわかります。すべては生き方ですから、つながっているのですね。

湯川 はい。マイケル・ジャクソンは19年前に「Earth Song」という曲で、地球の危機を一生懸命訴えてくれました。日本に最初に「熱帯林を切らないでくれ」と言いに来たのは、ポリスというロックグループのスティング。ジョン・レノンは1975年にオノ・ヨーコさんと一緒に「ドングリを植えよう」という活動を始めました。そんなふうに世界の危機を感性で捉え、メッセージを発するアーティストたちがいます。私も、そういう人たちに大きな影響を受けてきました。それで自然と、地球環境の運動にもつながっていきました。

高木 そうですね。感性に響くことを口にすると、全部がそこに行きつきますね。政治、環境、平和に。

湯川 何事も自分の感性で考えなくてはならないと思います。48年前にビートルズが武道館でコンサートをしようとして、「武道館は日本武道の神聖な場所だからロックなどに貸せない。百害あって一利なし」という意見が出て、中止になりかけたことがありました。覚えていらっしゃいますか。

高木 もちろんです。当時私は大学生でした。

湯川 その時に演奏された「Yesterday」を、去年ポール・マッカートニーのコンサートで聴きましたが、48年経っても、全然色褪せていないのです。なぜ、ロックは「百害あって」という意見が大多数の意見としてまかり通ったのか。このことは、自分の感性で「おかしい」と感じることが正しくて、大多数の意見が正しいわけではないことを私たちに示唆してくれました。

 

脱原発こそ現実的な未来

高木 今の日本は、普通の感性で捉えれば、おかしなことばかりです。特に安倍総理になってから、とても危険な方向に行っていますね。

湯川 はい。ただ、この前の都知事選では大同小異で団結できず、市民活動の限界も感じました。市民活動だけでは変わらないし、小選挙区制から何から、いろいろ変えなければならないと痛感しました。

高木 たしかに、小選挙区制はひどいですね。

湯川 1票が生きていない。憲法違反の判決が出てからも変えようとしない。

高木 憲法違反で選ばれた政治家は、憲法を守らないから三権分立も守らない。地裁で正しい判決が出ても、高等裁、最高裁に行けば政治で覆されてしまう。これでは最高裁ではなく最低裁です。

湯川 大飯原発の福井地裁判決、あれを素晴らしいと思わない人がいることが悲しいですね。

高木 同感! 素晴らしい哲学で感動的でしたね。

湯川 ただ現実問題としては、控訴されている間に再稼働されてしまいます…。

高木 本当に情けない。「福井判決は非論理的、脱原発は非現実的」と書きたてたメディアもあったけれど、現実問題として原発は今やめるしかない。これ以上進めることの方が非現実的です。

湯川 原発の危険性を認識するしかないですね。そして1基も動いていないのに電気は足りていることを認めて、エネルギーの地産地消が現実的だという考え方をみんなができるようになりたいと思います。

高木 地産地消のエネルギーでは、高温岩体地熱発電が注目です。地下の高温岩体を利用すると、原発も燃料も要らないし、使用済み核燃料の問題もない。安全で燃料費も要らない。掘ればマントルに当たるのですから、今後期待されています。

 

人間が人間を殺してはいけない

湯川 先ほど、市民運動では変わらないと言いましたが、日本は素晴らしい国だと思う点もあるんです。マイケルが亡くなった後、日本では「THIS IS IT」という映画が大ヒットして、マイケルを理解する人が急増しました。これは世界では珍しいことなんです。アメリカではまったくヒットしませんでした。

高木 え! そうなんですか。あんなに素晴らしい映画だったのに!

湯川 アメリカでは、あの映画の本当の素晴らしさとか、奥行はあまり理解されていません。日本では大ヒットして、マイケルの本質、どんなに素晴らしいアーティストだったか、優しい人だったかを多くの人が理解した。日本は、すごく感性のいい国だと思いますね。それで、私はこの国を諦めていないんです。本当に。

高木 私も同感です。では最後に、これから目指していくところを教えてください。

湯川 「人間が人間を殺してはいけない」、これが基本だなと思うんです。「人間が人間を殺してはいけない」と考えると、原発の問題も、戦争の問題も、集団的自衛権の問題も全部関わってくるし、自分がどう生きることを選びとって、何を発言していくか、集約されていくと思います。

高木 日本の政治のリーダーたちは、その前提に、ことごとく逆行していますね。

湯川 そうですね。オスの役割というのは本来、戦うことなんですね。種を守るために戦う。だから、男たちが立ち上がると争いが起こり、ロクなことにならない。ですから、「立ち上がれ」じゃなくて、「平和な社会を作るために、男に何ができるかを考えましょう」と言いたい。

高木 そうですね。最近、男が弱くなっていますしね。

湯川 弱くっていいんですよ。「戦うな」、「戦ったら未来はない」、「拳を振り上げたら終わり」です。

高木 それは非対立ですね。『地球村』の理念です。では湯川さんの詳しい活動は、ホームページを紹介させていただきます。今日はありがとうございました。

◆Office Rainbow 湯川れい子音楽事務所
 http://www.rainbow-network.com/