地球は今

【地球は今…】なぜ日本は世界一精神病患者ベッドが多いのか?

私たちの周りで心を病む人が増えてきている。今回はその実態をまとめた。 (事務局 渡辺裕文)

 
●心を病む人が増え続けている日本
大都市圏では人身事故で電車が止まることが日常茶飯事になり、昔では考えられなかったような殺人事件、誘拐事件などが報道されるようになった。以前に比べると、心を病んでいる人が明らかに増えている。

厚生労働省のデータでは心を病む人は約300万人。つまり40人に1人は通院しているのだ。しかし、この数字には通院していない人は含まれていない。引きこもったり、自殺をするまで追い込まれたり、犯罪に走ったりするなど、実際にはその何倍もの人が心を病んでいる。自覚症状のない人も含めて、日本の人口の半数が心を病んだ経験があるとも言われている。

 

●なぜ、急に増えたのか?
自然の中に暮らす人、自然な生活をしている人は心を病んでいない。生きることに一生懸命なのだ。日本も以前はそうだったが、今はモノがあふれ、テレビ、パソコンなど便利な道具に囲まれ、情報があふれるようになり、どんどん不自然な生活になり、お金を重視する社会になった。人と人との関係が希薄になり、家庭や地域でのつながりが切れて孤立化。職場や地元、家庭の中でコミュニケーションがきちんとできない人が増えた。抱えているストレスが外に向けば犯罪などへ、自分に向けば引きこもりや自殺などへつながり、それが日本の現状となっている。
 

●日本のメンタルケアは?

 日本は、精神病院のベッド数が世界一多い。一般の疾病の入院日数が30日であるのに対し、精神科への入院日数はその10倍以上(390日)になっている。世界の主な国と比較をしてもこの入院日数は異常である。

 

日本の精神科入院は、治療の他に、社会との隔離のための「社会的入院」が行われている。このため、病床数、入院日数も異常に多い。その結果、日本の精神医療予算の76%以上が精神病院のために使われている。他の先進国(イギリス31%、イタリア0%)に比べて非常に多い。


●先進国のメンタルケア
最も進んでいるのはイタリアである。
イタリアでは「バザーリア法(1978年)」により精神病院は全廃された。

 「精神病は病気ではなく、人間関係など社会的環境の問題である。人間関係は隔離では改善しない。社会の中でこそ取り戻せる」という思想の元にそれを実践し、それが立証された結果、国として精神病院を全廃した。

  

それを提唱したのがトリエステ州の病院の精神科の医師バザーリアであった。
・患者自身の意思を尊重しながら、地域で生活できることが前提
・地域精神保健センターを中心として、診療所、デイケアを増やし、在宅(共同生活)で生活が出来る環境を整備
・地域全体での受け入れ体制の中でメンタルヘルスコミュニティを構築
このような改革を行い、精神病院を6年間かけてなくした。

「なぜ日本にこれだけの病床数があるのか。私たち医師は、これだけでどれだけの費用が必要かと疑問を感じる。根本から考え直さなければならない」 (日本に来たイタリアの精神科の医師)

※トリエステ州のメンタルケアにかかるコストが半減するなどの成果だけでなく、元患者たちは町中で明るく生活するようになっている。映画『人生ここにあり』では、この時代のイタリアの様子がいきいきと描かれている。

日本のメンタルケアは、大きな方向転換が必要な時期にきている。

※参考図書『精神病院を捨てたイタリア 捨てない日本』(岩波書店)