スペシャル対談

2009年3月号 「未来バンク」理事長 田中 優さん

「未来バンク」理事長、「ap bank」監事、「天然住宅」共同代表、「日本国際ボランティアセンター」理事、「揚水発電問題全国ネットワーク」共同代表、「足元から地球温暖化を考える市民ネット・えどがわ」理事など、まさに“7つの顔を持つ男”田中優さん。高木さんとは「豪快な号外」のアドバイザーとして協働した仲ですが、実は今日が初対面。待ちに待った対談です!



■ 何でも鵜呑みにしない子

高木:はじめまして。まずは田中さんの経歴や過去を教えてください。

田中:いや~経歴といっても、そもそも高校時代から不良で、クビになっては入り直し7つの高校に5年間行きました。

高木:えっ、どうして ?

田中:素行が悪かったんです。タバコは吸うわ、酒は飲むわ。人の話を鵜呑みにできない性格だったんですね。「これを覚えろ」と言われると、拒否しちゃうんです。

高木:ははは・・・私もそうでした。私も内心、先生をバカにしながらも、いい子を演じていましたね。

田中:僕は当時、「俺ってどうしてこんなに協調性がないんだろう」って思っていました。それでも、公務員試験を受けたら通ったので、昼間は公務員をしながら夜間高校に通って、大検で卒業資格を取って、大学もそのまま夜間へ。

高木:公務員をしながら大学へ ? それは、珍しいケースだね。(笑)

田中:ところが大学がつまらなくて、やめちゃおうかなあと思っているところに、大学から「(学生運動、ストライキで)テストは中止。レポート提出のこと」という連絡が届いたんです。それで好き勝手にレポートを書いて出したら、全部A評価。僕はそれまで、自分の言うことは常に否定されてきたので、「お ! 大学はいい所じゃないか」と、まじめに通うようになって卒業できました。卒業と同時に、それまで勤めていた仕事を辞めたのですが、翌年たまたま受けてみた公務員試験で、国家、地方公務員の上級、みんな合格しちゃって。それまで
僕は高校もまともに出ていないし大学も夜間だしと、コンプレックスがいっぱいあったのですが、試験に合格してみたら、気にすることは何もないとわかりました。それで江戸川区役所に勤めて、昨年3月末に辞めました。

高木:えっ ! ずっと公務員をしていたの ?

田中:そうなんです、合計で31年間。NGO活動も公務員をしながら続けていました。

■ 謎を解き明かす喜び

高木:NGO活動を始めたきっかけは ?

田中:実は、2人目の子どもが生まれたのが86年チェルノブイリの時なんです。体が弱くて生まれてすぐに、喘息の発作で入院してしまって…。後になって調べてみたら、原発事故の影響で日本にも高濃度の放射能の雨が降って、牛乳に濃縮されて、胎児に影響していた可能性があった。調べればわかる問題なのに、きちんと調べずに子どもを病気にしていたのかもしれない。これが、何事も目を背けずに真正面から調べていこうと思ったきっかけです。

高木:疑問を持つ、関連を調べる、原因を突き止める、そこをやらないことが現代社会の問題だと思います。考えなくなったのは教育の成果だろうな。

田中:そうですね。その後、脱原発のための地域グループを立ち上げたのですが、89年に一気に運動が盛り下がったんです。どうしてだろうと原因を考えました。「危機感を煽りすぎた」「身近な問題に落とし込めなかった」という2点に気付きました。それで生活に密着していて、なおかつ危機感を煽らずやれる問題から入ろうと考えて、ゴミ問題へ行ったんです。空き缶リサイクルを始めたのですが、徐々に活動が成り立たなくなってきました。アルミ1キロ130円が30円に落ちて、鉄も1円で売れていたのがこちらから20円つけないと売れなくなったのです。また、何が原因だろうって調べたんです。すると値段が落ちているのは、日本のODA(途上国への開発援助)や貧しい国の債務が原因だとわかりました。日本が開発を融資して、相手の国から原料を買い叩く構図があったんです。だからリサイクルよりも新品の方が安くなっちゃう。その仕組みを調べていくうちに、お金の出所が郵便貯金だとわかって、そのことを講演で話していくうちに、本「どうして郵貯はいけないの」を出版することになったんです。

■ お金が変われば社会が変わる

高木:なるほど、そこから、「未来バンク」につながっていくのですね。

田中:お金の出所を調べていくうちに、日本が戦争をしたときの資金源は郵便貯金。今の環境破壊の資金源もやはり郵便貯金。財政投融資と言われていたお金ですけれど、郵便、簡保、基礎年金を集めたら、現在600兆を超えているんですが、その使い道が、ダム、河口堰、原発、再処理工場、高速道路、空港、スーパー林道、リゾート開発。つまり我々が反対してきたありとあらゆる問題につながっていたんです。我々は反対しながら、そこに貯金をして、果てしないモグラ叩きゲームをしてきたんです。叩くのをやめるには、コインを入れなければいい。それで自分たちでお金をコントロールする場を作ろうと、未来バンクを立ち上げたんです。

高木:なるほど、同感です。国家予算の二重帳簿(一般会計85兆円、特別会計200兆円)や、1000兆円を超す国家赤字によって私たちの預貯金、保険や年金はすでに実質は半分以下になっていることなど、国民に事実を知らせないといけないし、この仕組みを改めないといけない。ムダな公共事業は中止しないといけない。現状の中央集権ではだめ。官僚政治ではだめ。天下りはだめ。まずは政権交代して、霞が関システムを解体しないとどうしようもない。ひどい状態です。ところで、田中さんは他にも肩書きがありますね。

田中:ええ、いろいろ関わっているんですが、最近始めたのは「天然住宅」という非営利の住宅会社です。国産木材で合板なしの家を建てています。『地球村』の会員のみなさんも、天然住宅のHPを見て、こういう会社があることをぜひ知ってください。

高木:田中さんとしては、未来バンクと天然住宅とどちらがメインなのですか。

田中:肩書としては未来バンクですが、僕が一番好きなことは、謎を解くことなんです。ここにウソ臭い話がある、ここには何かトリックがあるという時に、それを調べていって「これだー ! 」と見つけるのが好きなんです。

高木:なるほど、よくわかります。物事の本質が知りたい気持ち、私も同じです。これからも一緒にタッグを組んで、謎解きをしていきましょう。そして、「世直し」をしましょう。ぜひ協力しましょう。

田中:こちらこそ、よろしくお願いします。

■天然住宅   http://www.tennen.org/