【地球は今…】感染症と暮らし(1)
歴史的に感染症パンデミックは社会の弱点をあぶりだし、社会に変革をもたらした。
今回は感染症の歴史、次回は新型コロナ後の社会の変化の方向性を考える。(高木善之、落合眞弓)
●感染症とは
病原体が体に侵入して、症状が出る病気のこと。病原体は大きさや構造によって細菌、ウイルス、真菌、寄生虫などに分類される。
▼細菌は、一つの細胞しかないので単細胞生物と呼ばれ、栄養源さえあれば自分と同じ細菌を複製して増えていくことができる。
ヒトに病気を起こすことがある細菌として、大腸菌、黄色ブドウ球菌、結核菌などがある。
人の腸内には約1000種類、100兆個もの腸内細菌が生息している。人は都合により、善玉、悪玉に分類する
▼ウイルスはとても小さく(細菌の50分の1)、細胞を持たないので、他の細胞に入り込んで生きていく。
細胞の中に入って自分のコピーを作らせ、細胞が分裂してたくさんのウイルスが飛び出し、ほかの細胞に入り込み増殖していく
●主な感染症とその歴史
★天然痘(ウイルス)
- 天然痘ウイルスの感染力は非常に強く、致死率が約20~50%と非常に高い
- 紀元前、エジプトのミイラに天然痘の痕跡がみられる
- 15世紀、コロンブスの新大陸上陸以降、アメリカ大陸に持ち込み大流行。アステカとインカ帝国の滅亡の大きな原因の一つに。
全滅したアメリカの先住民族もある - 1980年、天然痘ワクチンの普及などにより、WHOが『根絶宣言』を行った
★ペスト(細菌)
- ネズミなどを宿主とし、主にノミによって次々に広められる。致死率は、治療が行われなかった場合は60~90%、治療が行われた場合は10%
- 540年頃、ヨーロッパの中心都市ビザンチウムに広がる。最大で1日1万人の死者
- 14世紀、ヨーロッパで「黒死病」と呼ばれるペストが大流行。世界人口4億5000万人の22%にあたる1億人が死亡
★結核(細菌)
- 世界人口の3割(20億人)が感染、2016年は170万人が死亡
- 紀元前、エジプトのミイラに結核の痕跡がみられる
- 1935年から終戦まで日本の死亡原因の首位。1950年に抗生物質により発生減少
- 現在、抗生物質に対して抵抗性を示す結核菌が現れている
★マラリア(マラリア原虫という寄生虫)
- 蚊(ハマダラカ)によって媒介。世界で年間2億人以上が罹患し、200万人が死亡
- 紀元前、「マラリア」についての記録。6世紀にローマ帝国を中心に大流行
- 1950年代、殺虫剤DDTなどによる根絶計画実施
- 現在、DDTに抵抗性のあるハマダラカが出現
★新型インフルエンザ(ウイルス)
スペインかぜ
- 1918年~1920年に大流行。アメリカ・カンザス州にある陸軍基地の兵営で発生し、第一次世界大戦のアメリカ軍の欧州派遣により世界中にばらまかれた
- 当時の世界人口の約3割に当たる5億人が感染、4000万人以上が死亡
- 日本でも大流行。当時の日本内地の人口5600万人の0.8%、45万人が死亡。この死亡率を現在の日本の人口に当てはめると死者100万人となる。
当時の日本の報道では「流行性感冒」、俗称は「流感」だった
アジアかぜ・香港かぜ
- アジアかぜは1957年に世界で大流行。200万人以上が死亡
- 香港かぜは1968年に世界で大流行。100万人以上が死亡
★新興感染症(ウイルス)
エイズ(後天性免疫不全症候群、HIV) (1981年~)
- 過去20年間で6500万人が感染、2500万人が死亡
- ピークは越したと考えられるが現在感染者は世界で4000万人、日本でも2万人
エボラ出血熱(1976年~)
- 自然宿主の特定には至ってはいないが、複数種のオオコウモリが有力
- 患者の血液、排泄物や唾液などの飛沫感染が主な感染経路。致死率40~70%
高病原性鳥インフルエンザ(1997年~)
- 鳥インフルエンザは鳥から鳥に感染すると見られてきたが、近年、ヒトに感染する高病原性鳥インフルエンザ (HPAI) が現れた。
致死率は当初30%だったが、2004年の流行では60~70%と極めて毒性が強力に変異している
SARS(重症急性呼吸器症候群) (2002年~)
- コロナウイルス (SARS-CoV) によって引き起こされるウイルス性の呼吸器疾患
- 動物起源の人獣共通感染症と考えられている。世界30ヵ国8422人が感染し、916人が死亡(致命率11%)
新型コロナウイルス(2019年~)
- 2019年、中国武漢で発症。世界の感染者数は1300万人。死亡者数は56万人以上
- 正式名称 重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2 (SARS-CoV-2)
次回は、感染症のパンデミック(世界的流行)と社会変化について考えてみます。 |