環境情報

【地球は今…】湿地

すべての生き物には水が必要だ。今回は、水といのちを育み人々の暮らしを守る湿地について考えてみよう。              (高木善之、落合眞弓)

●湿地とは?
ラムサール条約(※)では、引き潮の時に水深が6メートル以下の海域を含めて、川、干潟、田んぼなど一年中あるいは季節的に冠水する陸地を「湿地」と規定

※ラムサール条約とは?
★ラムサール条約は、1971年、イランのラムサールで開かれた国際会議で採択された「すべての湿地を大事にして、賢明な利用をすること」を取りきめた国際的な条約
★2020年1月に171締約国、2,386ヵ所のラムサール条約湿地を擁する
★ラムサール条約第4次戦略計画2016-2024の長期目標は「湿地が保全され、賢明に利用され、再生され、湿地の恩恵が全ての人に認識され、価値付けられること」

●湿地の種類は?
★海洋沿岸域湿地 
河口、三角州や干潟、塩性湿地、マングローブ、沿岸域、藻場、サンゴ礁など
★内陸湿地
湖や河川、地下帯水層、沼沢地や湿原、湿った草地、泥炭地、氾濫原、湧水地、カルスト台地の地下水系、オアシスなど
★人工湿地
水田や塩田、農業用ため池、水産養殖池、ダム湖、遊水池、廃水処理区域。下水利用農場、沈殿池、運河、排水路、水路など
●湿地の現状は?
★世界の湿地は1210万㎢(全陸地の8%)、その32%がアジア、北米27%、中南米16%などに分布。
★1970~2015年の約半世紀に世界の湿地の35%が消滅
*消滅した湿地は、中南米が最も多く59%。次がアフリカで42%、欧州も35%が消失
★森林の3倍のスピードで消滅が進んでおり、2000年から一層加速している
★全世界に生息する2万種の魚類のうち、40%以上が湿地帯の淡水に生息
★湿地に生息する魚、水鳥など1万8千以上の種の4分の1が絶滅の危機
★減少、劣化の主な原因は、地球温暖化や人口増、都市化

【訂正】11月号の「地球は今」の電源構成の円グラフの記載に誤りがありました。
石油26.7%は正しくは石炭26.7%です。お詫びして訂正いたします。

●湿地の重要な働き~最も価値のあるエコシステム
★米や魚介類などの食糧供給源。世界の食料需要の20%を産出 
★地球上の水のうち淡水は3%。その多くが湿地から供給されるとともに、地下の帯水層に水を補給(アジアでは約20億人の人々が、地下帯水層の水で生活)
★殺虫剤、農薬、産業廃棄物、鉱山廃棄物などから出る汚染物質で汚れた水を浄化
★湿地には地球上の動植物の40%が生息している。生物の多様性の源泉
★泥炭地は地球の陸地の3%だが、全世界の森林の2倍以上のCO₂を備蓄。地球上で最大の天然の炭素貯蔵庫
★洪水や干ばつの防止を助ける防護壁として機能し、気候変動の危機を緩和
★温泉や潮干狩り、野鳥の滞留。自然の美的景観が生まれ観光資源に

湿地は、昔から「不要な土地、無駄な土地」として埋め立てられ、宅地、商業地、工業地、農地に変えられてきた。人間は長い歴史を通じて自分の生存の場を破壊してきた。
九州の諫早湾干拓事業、長良川や芦田川の河口堰(せき)などの巨大開発、巨大干拓事業は大きな失敗例だ。一方、吉野川河口堰問題(江戸時代につくられた堰を破壊して巨大な可動堰を作る公共事業)は住民投票の結果、中止となったが、河口付近の開発計画は今も続いている。
辺野古基地建設は住民の反対に関わらず、政府は工事を強行している。
目先の政治や経済のために破壊した自然や未来は、二度と取り戻せないのに・・・・

●日本の湿地
日本は豊富な雨量と周囲を取り囲む海の恩恵を受ける、水に恵まれた国である。そのため、小さな国土の中に水田、貯水池、湧水池、地下水系、湿原、河川、湖沼、砂浜、干潟、サンゴ礁、マングローブ林、藻場など多種多様な形態の湿地が形づくられ、地域の生物多様性を支え、地域の財産となっている。湿地面積は全国で明治・大正時代は、2110 km²あったが、現在は約6割が消失した。 
●水田の働きと生命力
★溜めた水を徐々に地下に貯留し、河川の水量を安定させる。大雨の時は水を一時的にためて河川への水量を調整するので、洪水や土砂崩れや土壌流出を防ぐ。全国の水田が貯めることのできる水量は、すべてのダムの約2倍の約50億トン
★水田の土層はろ過する働きをして水をきれいにする 
★夏には、田の水が蒸発する時に周囲を冷やして気温を下げている
★独特の生態系があり、春はカエル、夏のホタル、秋のトンボ、冬のガンやカモ、ツル。水田の中にはタニシ、蜘蛛、ザリガニが。水路やため池にはコイ、フナ、エビその他の小魚など、数多くの生物の生息地となっている
★米の収穫と田植え祭や秋祭りなど、地域コミュニティや文化の中心となっている