演説の力(2023.03.27)
★演説の力
いまフランスでは大規模な国民のデモが続いている。問題は年金改革。内容は、年金支給年齢が62歳から64歳になる法案を強行採択で通したことだ。年金改革は財政改善の課題であり、マクロン政権が発足した時からの課題だった。
フランスの国家財政の維持には欠かせない政策でもあるのだが、この経過を見ていると演説の力というか、演説の上手い下手を痛感する。
各国の年金支給年齢を調べると、国民の寿命と相関があり、フランスの年金支給年齢の62歳は低すぎるし、65歳にしてもおかしくない。
しかしフランス国民の76%が「説得力がない。むしろ反感、反発を感じた」と回答した。マクロン大統領の説明や演説を私も聞いたが下手すぎる。
説明は筋が通っているが、問題はその姿勢だ。自分が正しい、仕方ない、これしかない、という気持ちが前に出ていて、まさに主義主張であり、正義感、使命感が強く、「これが正しい、理解すべきだ、理解できない方がおかしい」という話し方だ。
公開のインタビューでも
「この改革を私が楽しんでいるとでも思っているのか。ノー。財政悪化を防ぐには年金改革は必要なのだ。私は目先の世論より国家の利益を選ぶ。不人気は甘んじて受ける」
これをあの顔で、あの表情で、譲ることなく主張するのだ。
これと同じような場面を、ドイツのメルケル首相は感動的な演説で何度も乗り切った。
特に2020年のコロナ危機の時に国民に語りかけた演説はすごかった。
新型コロナにより欧米が危機に陥ったとき、行動制限に反発する国民に対してテレビ演説を行なった。
第二次世界対戦以降最大の危機に直面しているとし、これを真剣に受け止めるよう国民に訴えかけた。科学的知見の明確な提示と、共感および政治的慎重さとを組み合わせた、責任と一体感への印象的な演説だった。
「苦労して行動の自由を勝ち取った者にとって、国家による行動制限は絶対必要な場合以外は許されない」と、自らの旧東ドイツ出身の体験から語りかけたことが高く評価され、国民は深く理解した。
メルケル首相はいかなる場合でも、主義主張や抗議要求ではなく、事実を伝え、何が必要化を理解させる能力が優れている。
その結果、16年という長期政権と欧州のリーダーを努めた。
日本の首相はその点でも足元にも及ばない。日本の場合、ある首相はヌケシャーシャーとウソをつき、話をすり替えはぐらかす。ある首相は原稿の棒読みだが、読み間違いと滑舌が悪すぎて意味不明。
岸田首相も原稿を読むだけで内容はない。ロボットのように感情もなく、気持ちも伝わらない。
政治家には、共通一次テストか資格試験が必要だ。まず社会常識、道徳、モラル、倫理、そして言語能力、説明の力、演説能力が必要だ。果たしてこれをクリアできそうな政治家はいるだろうか。